「ここにいても、いいのかい?」と、いつも聞くひと

職場の話題

認知症、ご存じですか。

かつては、「ボケる」「ぼけ老人」なんて言われていましたね。

要するに、加齢を重ねることで、

脳みそも老化し、機能が衰えてしまう現象です。

記憶を無くしたり、性格が変わったり、いろいろなことが出来なくなったり。

ちなみに、遅い早いの差はあるものの、

基本的には、生きていれば、いずれは誰でも発症します。

そして、この「認知症」。

介護する側にとって、とりわけ家族にとって、

理解はしても、心情的には、なかなか受け入れがたいことなんです。

なので、介護者の苦労や体験談、あるいは介護の指南書は、

世の中にごまんとあります。

でも、認知症に「なった」側の気持ちは、なかなか知る機会がありません。

認知症が進行すると、言葉で表現する能力が失われていくからです。

認知症になった側から見える景色。

どんな感じなんでしょうね。

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ここにいてもいいのかい?と、聞いてくるひと

私が勤務する病院に入院中で、90歳代のマルイさん(仮名)は、

この年代にしては、大柄のがっしりしたじいちゃんです。

そのマルイさん、私の顔を見ると、

いつも訊ねます。

あんた、ここの人かい?

ちょっと内緒で聞きたいんだが

わい、ここにいていいのか

家には帰れない、マルイさん

マルイさんは、娘さん夫妻と3人暮らしでした。

「可愛いやつだ」とマルイさんが評する奥さんは、

実はすでに亡くなっています。

マルイさんは、言います。

ウチのやつを追い出して、

知らん女が住み着いている。

知らん女が男も連れてきて居座った。

もちろん、そんな事実はないです。

奥さんは亡くなり、

娘さんは、しっかりした雰囲気の中年女性です。

でも、マルイさんは、違うと言います。

娘さんは、別に暮らしている、でも盆暮れは訪ねてくるんだぜ・・・。

そうなんです。

マルイさんは、認知症なのです。

そして、もう、マルイさんは家に帰らず、

退院とともに介護施設に行く予定です。

大事な人も、わからなくなっていく

元々は、ご夫婦で二人暮らしだったマルイさん。

数年前に奥さんが亡くなり、お葬式を済ませたときに、

娘さんは異変に気がついたそうです。

食事をしても、30分後には「ごはん、まだか?」

ランニングシャツを裏表に着ても気がつかない

散歩に出かけたら、帰ってこられない

ヤカンのお湯が沸いても、火を消すこともせず、ガスコンロの前で立ち尽くす

そして、

妻が亡くなったことに、気がついていない

長年のかかりつけ医に往診してもらい、

認知症の診断が下りました。

いつから発症していたのか。

しっかり者の妻が防波堤になっていたらしく、

娘さんは知らなかったそうですね。

とてもひとりで暮らせる状態ではなく、

急遽、娘さんご夫妻が引っ越してきて、

同居を始めたのでした。

1年半、くらいです。

娘さんは、言います。

半年くらいで、私のことが分からなくなりました。

「あんた、誰だ?」と言われたとき、

思わず笑ってしまいました。

しばらくすると、私の名前を呼んだから、

まだ、大丈夫って、自分に言い聞かせたりしました。

でも、わからない時間の方が長くなって、

そのうち、

「家内を追い出したんだろう」って言われました。

それが、どうしても許せなかったです。

娘さんの目は、真っ赤でした。

離れることも、大事だと

マルイさんの見えていた景色、

「こういうことだ」とご自分なりに理解した事情は、

どんなだったのだろう、と今でも考えます。

マルイさんは、

実力行使で「悪いやつ(注:娘さん)」を追い出そうとして、

スキーのストックを振り回したところ、

バランスを崩して転び、しりもちをつきました。

その拍子に腰の骨を圧迫骨折し、当院に入院したのです。

入院中は、ホントに好々爺でして、

認知症による記憶障害はあるものの、

攻撃的な振る舞いはありませんでした。

退院して施設に行く日。

娘さんは精算のために来院したけれど、

マルイさんには、会いませんでした。

でもロビーの隅から、マルイさんを見送り、

相談室に立ち寄られたのです。

父が私を忘れてしまったのは、

私が、よくない娘だったから、なんでしょうね。

いやいやいや、

絶対にそれは違いますよ!

認知症の症状ですよ。

そういう病気なんですよ。

思いつく限り、いろいろ例を挙げて説明を試みましたが、

娘さんは苦笑いの表情でしたっけ。

認知症の患者さんが見ている景色、

それが娘さんにも伝わったら、

マルイさんも、娘さんも、もっと何かが救われたんじゃないか、と

そう思うのです。

この本をご存じですか。

現役ヘルパーの漫画家さんの作品で、

認知症患者さんから見た、日常の光景が描かれています。

まるで、ご本人が語っているようです。

私は、読んでいる間、涙が止まりませんでした。

医療・介護の関係者、介護をする家族さん、妙齢のみなさん、

必見だと思います。

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